人妻姦落1『媚肉の流刑地』
結城彩雨
SM秘小説2004年2月号掲載
 
 スーパーの中を巡回しながら、銀次は昨夜の事を思い出していた。飲んで帰ってきた所を、黒岩と木島に待ちぶせされ、薄暗い路地に連れこまれた。
「銀次、金は出来たんだろうな」
 木島がドスのきいた声で言った。黒のスーツに身をつつみ、サングラスをかけてすごみがあった。夜のネオンサインに襟の金バッチが光って、色を次々と変えた。
「待ってくれ。明日には必ず払うよ」
 銀次はおびえた声で言った。黒岩や木島に比べれば、銀次はケチな小悪党でしかない。銀次の顔が蒼ざめ、すうっと酔いが消えた。
「うそじゃねえよ。もう一日だけ待ってく
れ……明日の夜にはきっと払うからよ」
「いいかげんな事を言うなよ、銀次」
 そう言うなり、木島の強烈なパンチが銀次の頬を襲った。にぶい音がして銀次のからだが吹っとんだ。ボクサーくずれの木島のパンチに歯が砕け、鼻血が吹き出す。
「やりすぎるなよ、木島。フフフ、金を返す気にさえなりゃいいんだからな」
 黒岩がニヤニヤとながめながら笑った。爪やすりで爪をみがいている。黒のスーツに白い絹のマフラーをたらし、金ブチメガネがなんともキザっぽい。
「大丈夫ですよ、黒岩の兄貴。ちょいと痛めつけてやるだけで」
 立ちあがろうともがく銀次の脇腹を、木島はとがったくつの先で、続けざまにけりあげた。
「や、やめてくれッ、金はつくるよ。明日にはきっと返すからようッ」
 銀次はころがりながら叫んだ。
 バクチに手を出したのがいけなかったのだ。まんまと木島のイカサマにひっかかり、気づいた時には百三十万もの借金が出来ていた。スーパーのガードマンでしかない銀次に、そんな大金を返せるはずもなかった。だからと言って金を返さなければ、どうなるかは火を見るよりも明らかだ。
「木島、そのくらいでいいだろう」
「へい……もう一日だけ待ってやるぜ。明日には金をつくれよ、へへへ、さもねえと、こんなもんじゃすまねえぜ」
 グッタリと動かなくなった銀次を、もう一度けりあげて木島は笑った。
 その黒岩と木島が今夜やってくる……スーパーの中を巡回する銀次の額に冷汗がにじんだ。なんとかしなくては……だが、百三十万もの大金を今夜までにつくるあてなどない。そこら中をかけずりまわって金を集めても、三十万がやっとだった。銀次はあせった。スーパーの中で万引きを防止するのが銀次の仕事なのだが、もうそれどころではない。膝がガクガクしてきた。
「金がないとなりゃ、あとは女でカタをつけるしかないですねえ」
 行きつけの店のバーテンの言葉を、銀次はふと思い出した。バーテンの話によると、黒岩は異常なまでの女好きで、これまでにも借金のカタに女房をとられた男が何人もいると言う。人妻を嬲る異常な性癖があるらしい。だが、銀次はまだ一人者だ。
 金をつくれなければ、かわりに女を……追いつめられている銀次はそう思った。並の女では駄目だ。黒岩好みの美女で、その上、人妻でなくては……銀次の頭に一人の美しい人妻が浮んだ。
 市村篤子……いつも決った時間に来る美人妻だ。いたずら電話の趣味がある銀次は、こっそり篤子のあとをつけて、いろいろ調べてまわったのだが、思わぬ事がやくに立ちそうである。
 銀次は時計を見た。篤子が買物に来てもいい時間だ。銀次はあわてて店内を見まわした。
 篤子がいた。若妻らしいポニーテールのヘアスタイルが果物売り場に見える。ライトブルーのプリーツスカートにチューリップをあしらった白のカーディガン……見るからにさわやかである。
 銀次はまっすぐ篤子へ向って歩いた。心臓の鼓動がやけに激しくなる。これから自分がやろうとしている事を思うと、銀次は極度に緊張した。
 銀次は篤子に近づくと、混雑を利用してすばやく高級化粧品を篤子の買物バッグの中へしのばせた。篤子が気づいた様子はなかった。
 そのまま篤子の後をつけ、スーパーを出た所で銀次は声をかけた。
「ちょっと待って下さい、奥さん」
 声が妙にうわずった。
 篤子がふり返る。銀次は思わずドキッとした。深い湖のような黒い瞳でまっすぐ見つめられれば、どぎまぎしない男はいまい。
 銀次は手のひらが汗でジットリしてくるのを感じた。その汗をズボンでぬぐい、度胸をきめて篤子を見つめた。
「そのバッグの中の化粧品、まだ料金をもらってないんですがねえ、奥さん」
 スーパーのガードマンである事を示すカードをかざして、銀次は言った。
 篤子は何を言われたのかわからない顔をしている。
「なんの事でしょうか……」
「とぼけても駄目ですよ、奥さん。これは何ですか」
 銀次は篤子の買物バッグの中から化粧品を取り出して見せた。
 きれいに薄化粧してある篤子の頬が、驚きに蒼ざめる。篤子にしてみれば、まったく身に覚えがないのだ。
「そ、そんな……こんなもの知りません」
「なに言ってんだよ。現に奥さんのバッグの中にあるじゃないか」
 銀次は篤子の手首をつかんですごんだ。
「待って下さい。何かの、何かの間違いです。本当に化粧品の事は知らないんです」
「万引きする奴は、みんなそう言うんだよ。さあ、事務所の方へ来てもらいますか」
 銀次はわざと大きな声で言った。強引に手を引っぱった。
「へんな言いがかりはやめて下さい。あ、あ、手を離してッ」
 銀次の手をふり払おうとした篤子も、人だかりが出来てくると人目を気にして、
「わ、わかりました。事務所の方ではっきりさせますわ」

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